家族信託の基本

家族信託の基本

認知症対策の一つに、家族信託があります。
家族信託はまだ歴史が浅く、専門家の間でも試行錯誤が続いている分野ですが、高齢者の生活を守るという観点から見ると、非常に心強い仕組みです。


今回は、家族信託がどのように役立つのか、その可能性をお伝えします。

家族信託が必要とされる背景

日本の2024年の高齢化率(65歳以上)は29.3%です。
(下グラフ、赤線が高齢化率の推移を表しています)
この30年で高齢者の割合は大きく増え、社会構造そのものが変わりつつあります。



さらに、認知症有病率は2022年には12%を超え、65歳以上の高齢者の10人に1人は認知症という状況です。MCI(軽度認知障害)まで含めると28%近くなり、4人に1人は認知機能の低下を抱えていることになります。



こうした日本の現状をふまえ、高齢者の生活や財産を守る制度はいくつかあります。


後見人制度もその一つですが

・家族以外の第三者が財産管理を担うことへの抵抗感
・柔軟性の低さ

などから、利用率は決して高くありません。
(※後見制度にはメリット・デメリットがそれぞれあります)



そこで、家族に安心して財産を託せる仕組みとして整備されたのが「家族信託」です。


家族信託の基本

ここでは、認知症対策としての家族信託に絞って説明します



家族信託には、次の3者が登場します。

財産を託す人
財産を託される人
財産から利益を受ける人


認知症対策では、託す人=利益を受ける人となるケースがほとんどです。


託す人がすること

託す人は、

•金銭
•不動産
•有価証券

などを託すモノとしてまとめ、託される人に託します。


託すモノから生まれる利益というのは、例えば次のようなものです。

・自宅に住み続ける権利
 (自宅を託す)


・収益不動産の家賃収入
 (収益不動産を託す)


・毎月の生活費としての金銭を受け取る権利
 (金銭を託す)


・有価証券の配当金  
 (有価証券を託す)



託された人がすること

託された人は、託されたモノを管理・運用します。

・空き家になった自宅を売却する
(自宅を託される)


・収益不動産の管理をする
(収益不動産を託される)


・金銭を口座から出金する
(金銭を託される)


・有価証券の新規買付や売却をおこなう
(有価証券を託される)


これらは本来、託す人自身ができることです。
しかし、認知症になると口座が凍結され、売却や管理ができなくなるという大きな問題があります。


家族信託を結んでおけば、

•口座凍結
•不動産売却の停止
•資産運用の停止

といった認知症によるリスクを避けることができます。


つまり家族信託は、
託す人の将来のリスクを下げるための“安全対策” なのです。



家族信託の基本5箇条

その1 
家族信託は家族の信頼関係があってこそ成り立つ

家族信託は、託された人が、勝手に財産を使い込まないよう法律上の制限があります。しかし、信託企業に託す時ほど強い制限はありません。
だからこそ、財産を安心して託せる家族がいることが前提になります。


その2 
家族信託の目的を明確にする

家族信託は、契約書に信託目的を必ず記載します。その目的に沿って、託された人は財産を管理・処分します。

・託す人の生活を守りたい
・配偶者の老後も支えたい

など、なぜ家族信託をするのか目的を明確にすることが大切です。


その3
家族信託は相続税対策にはならない

家族信託は、相続税を減らす仕組みではありません
信託終了後、託したモノを誰が受け取るのかを決めることはできますが、その時にも通常通り相続税はかかります
また、家族信託に登場する3者の設定によっては、贈与税が課せられることもあります。


その4
家族信託を始める時は、登場する3者だけではなく、他の推定相続人とも話し合う

家族信託は、登場する3者が最も重要です。しかし、他の家族にも共有しておかなければ、いらぬ誤解を招き、家族関係が悪化しかねません。

「お兄ちゃんが勝手にお母さんの口座からお金を引き出してる!」など

また、家族信託は契約によっては数十年続く可能性もあります。そのため、託す人より前に託される人が亡くなってしまうなど、想定外のことも起こり得ます。あらゆる可能性に対処するためにも、家族全体で共有することが重要です。


その5
家族信託では託せないモノもある

家族信託では、農地は託すことは難しいです。
他にも、例で挙げた有価証券も、難しい場合があります。証券会社によっては信託口座が作れない場合があるからです。契約前に金融機関へ確認することが必要です。



まとめ

・家族信託は、信頼できる家族に財産を託す仕組み
・家族信託は、認知症対策に非常に有効
・家族信託は、将来のリスクを下げ、安心して暮らすための備え




人生100年時代と言われますが、健康に過ごせる時間には限りがあります。
「何歳まで元気でいられるのか分からない」
という不安を解消するためにも、まずは家族で話し合ってみたらいかがでしょうか?もやもやとした不安が形になったり、思わぬ形で解決したり、解決の糸口が見えることもあります。


私たち専門家も、家族信託を含め、ご相談者様のお悩みに寄り添い、最適なご提案をさせていただきます。


家族信託は、信託契約にあたるので、認知症になる前に契約を結ぶ必要があります。
認知症発症後では、家族信託を利用できない可能性が高いです。

今回の説明は、家族信託の基本をわかりやすくまとめたものです。
実際の信託契約では、ご家族の状況に合わせた細かな設計が必要になりますので、専門家と一緒に確認しながら進めていくと安心です。