遺言書が招くトラブルとその対策

遺言書が招くトラブルとその対策

「人生100年時代」と言われる今、元気なうちに終活を始める方が増えています。その中でも、遺言書の作成は“相続争いを防ぐための大切な手段”として広く知られています。


遺言書を作成する理由はさまざまです。

•遺産をめぐる争いを防ぎたい
•お世話になった人に多めに遺したい
•代々受け継いできた土地を子孫に遺したい

しかし、遺言書は「書けば安心」ではありません。 内容によっては、むしろ相続人間の関係を悪化させてしまうケースもあります。
今回は、遺言書があることで揉めてしまう典型的なケース3つと、その対策をお伝えします。

ケース1 
負動産押し付け遺言

事例

遺言者:Aさん
相続人:長男・長女
遺産:自宅(評価額:5000万円)
   預貯金(1500万円)
   負動産(評価額:100万円)

遺言内容
・介護をしてくれた長男に自宅を相続させる
・長女には、自宅以外の遺産を相続させる


なぜトラブル?

「負動産」とは、

価値が低い
  売れない
    維持費だけかかる不動産

のことです。


長女からすると、

「価値のある自宅は長男へ、厄介な負動産だけ自分に?」

と不満を抱きやすく、遺言者の意図とは逆に関係悪化につながります。


遺言書がない場合

相続人同士で話し合い、柔軟に対応できます。

•負動産の処分が決まるまで遺産分割を保留
•自宅を売却して均等に分け、負動産と預貯金は長男が引き取る

など、相続人間で納得できる形を探れるのがメリットです。



対策

負動産は生前に処分しておく

これが最も確実で、相続人間のトラブルを防ぐ方法です。


例外

相続人間の関係が悪い場合は、遺言で明確に指定したほうが良いこともあります。 ただしその際は、遺留分侵害に注意が必要です。



ケース2
負担付き相続(遺贈)が曖昧な遺言

事例

遺言者:Bさん
相続人:妻・長男・長女
遺産:自宅(評価額:7000万円)
   預貯金(3000万円)


遺言内容
・自宅と預貯金2000万円を長男に相続させるかわりに、長男は妻(長男の母)の面倒を見ること
・長女には、預貯金1000万円を相続させる


なぜトラブル?

負担付き相続(遺贈)とは、

遺産とともに法律上のお約束をする相続(遺贈)のこと

です。
今回は、妻の面倒を見ることでしたが、他にも

・ペットの世話をすること
・墓地を維持管理すること
・農業を続けること

などがあります。
負担付き相続(遺贈)では、遺言書のお約束を守らないからといって、すぐ無効にはなりません。他の相続人、今回でいうと母や長女が長男に対しお約束を守るよう注意し、それでも守らない時は、家庭裁判所に負担付き相続(遺贈)部分の遺言取消しを請求します。請求が通り、取消しとなったら、自宅と預貯金2000万円については遺産分割協議の対象となり、相続人間の話し合いにより、誰が相続するかを決めることになります。


今回のお約束は『妻の面倒を見ること』ですが、『面倒を見る』とはどこまでを指すのか。
頻度・金銭負担・介護の範囲などが曖昧だと、必ず解釈の違いが生まれます。

•長男
「生活費を入れて定期的に様子を見れば十分」
•長女
「もっと頻繁に訪問すべき」

このように、“負担の内容が曖昧”だと必ず揉めます。



遺言書がない場合

遺産分割協議により、遺産の配分等が決まります。

法定相続分
妻:5000万円
長男:2500万円
長女:2500万円

仮にこの通りに分配されると考えます。
妻が自宅に住み続けたいと考えた時は、妻の相続分は自宅の評価額7000万円に足りません。足りない2000万円分を妻の老後資金から1000万円ずつ長男長女に払う必要があります。これでは、妻は自宅に住み続けられる一方、老後資金が減り老後不安が募り、Bさんの想いとはかけ離れてしまいます。


対策

生前に、家族信託を活用する


家族信託の活用が有効です。

•妻の生活費を長男に託す
•使い道・管理方法を明確に決められる
•長女が監督役になるなど、透明性を確保できる

負担付き遺贈よりも、実務的に確実でトラブルが少ない方法です。


例外

対策に家族信託を挙げましたが、これは託せる長男と、監督する長女といった役割分担ができる家族がいるから成り立つことです。家族信託の適否はケースごとによって異なるため、行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。



ケース3
評価額の変動を考慮していない遺言

事例

遺言者:Cさん
相続人:長男(自宅同居)・次男
遺産:自宅(評価額:2000万円)
   預貯金(5000万円)
   不動産X(評価額:8000万円)


遺言内容
・預貯金は長男と次男に半分ずつ相続させる
・自宅は長男に、不動産Xは次男に相続させる


なぜトラブル?

このケース、ぱっと見だと、Cさんは次男を可愛がっていて多く遺したようにも見えますが、実は真意は異なります
遺言作成時は、自宅と不動産Xの評価額が同じだったためこのような遺言を遺したのです。しかし、不動産価格の変動により評価額の差がひらき、結果として長男と次男の相続分の差も大きくなってしまったのです。


遺言書が無い場合

法定相続分
長男:7500万円
次男:7500万円

長男が自宅にそのまま住み続けたい場合は、自宅と預貯金5000万円を長男が取得、次男が不動産Xを取得し、長男が差額の調整金を次男に支払うことで、法定相続分に従った配分になります。


対策

自宅を長男に相続させる遺言書を作成し、残りの遺産については遺産分割協議に委ねる


例外

相続人間の関係が悪い場合は、遺言で指定したほうが良いこともあります。 ただし、不動産価格の変動は読めないため、生前の不動産整理も検討すべきです。


まとめ

・負動産は生前に整理する
・負担付き相続(遺贈)は慎重に判断し、家族信託の活用も選択肢にいれる
・不動産や有価証券の価格変動はトラブルの種になりやすい


遺言書は遺言者の想いを届けるものです。
しかし、その想いが予期せぬ形でトラブルを招いてしまうこともあります。
遺言書の内容について不安や心配の方は、トラブル防止のためにも是非専門家に一度ご相談ください。